戦略的知財法務2

 製品市場、そして特定技術に特化するという企業の方針が決まれば、それに向けた研究開発活動をしていくことになります。 その際に、知財マネジメント上問題となるのは、研究開発活動で得られた成果を

@公知化
Aノウハウ保護
B特許出願

のいずれの方法で保護していくのか、という点です。

技術価値の検討

 まず、開発した技術の価値を評価する必要があります。当該技術が、必須技術であるのか、これに付随する技術であ るのかを検討した上で、特許出願のための予算も勘案して検討します。この判断には現在の状況のみならず、将来の予想 も踏まえる必要があります。これらを総合的に判断したうえ、あまり価値が大きくないと判断されるものは、特許出願等を することなく、あえて公知化(特許出願をすることなく公開)することが考えられます。公知化により、他社の特許化を 防ぐことが可能となります。

 もちろん、特許取得しないので、万人がその技術を用いることができるようになってしまうことには留意しなければなりません。 また、公知化する場合には、他社が公知化された技術をもとに新たに改良発明をすることがあり得るということにも気を配る 必要があります。

検出可能性の検討

 上記で検討した結果、特許出願の費用に見合う技術であれば、次に、他社の物を入手して分析することができる か否かという、他社実施の検出可能性の観点から、特許出願するのか、ノウハウ保護とするのかを検討します。 検出可能性のない特許は権利行使ができないため、参入障壁の形成という点で意味がありません。 かえってこのような技術について特許出願をしてしまうと、他社に盗用されるだけであるともいえます。 すなわち、特許出願かノウハウ保護かのメルクマールは、他社実施の検出可能性にあるのです。

 特許権侵害訴訟において、相手方が特許権侵害しているか否かの立証責任は特許権者側にあります。 特許法上、文章提出命令(第105条)や具体的態様の明示義務(第102条の2)、生産方法の推定(第 103条)等が存在するので、これらを併せ駆使して立証できるかどうかで検出可能性を判断すべきでしょう 。 ただし、文章提出命令は、侵害について、高度の蓋然性がない限り発令されませんし、具体的態様の明示義務 といっても、相手方の実施がブラックボックスの状態では、訴訟提起すらできませんので注意が必要です。

 以上のように、検出可能性を検討した上で、特許出願かノウハウ保護にするのか決定するわけですが、 以下、さらにそれぞれについて戦略的な知財法務の視点から考えてみます。

ノウハウ保護戦略

 検出可能性がない技術は、前述のように、ノウハウとして管理するということになります。 ノウハウの管理のレベルを一定程度に高めることで、ノウハウ流出や不正な盗用があった場合、 不正競争防止法上の保護を受けることが可能です。 なお、不正競争防止法は、あくまで流出した場合の事後策である点には注意しなければなりません。 また、一定の管理レベルが要求されますので、安易にノウハウと決め付けるのは適切ではありません。 さらに、ノウハウで保護し続ける限り、その管理を維持・継続することが重要であり、多大な労力がかかる点に 留意しなければなりません。

 次に検討すべき点としては、ノウハウとして保護していく場合の他社との関係についてです。 参入した市場の必須技術を自社内でノウハウとして保護していれば、それが流出しない限り市場での地位を確保することが できると思われますが、それは、他社が同様の技術を開発しないという前提に立った話です。 しかしながら、ノウハウとして保護してきた技術と同じ技術を競業他社が開発し、特許出願をした場合は、話が異なります。 すなわち、他社が、従来ノウハウ化されていた必須技術を、検出可能性を備えた形で特許出願し、 それが特許された場合には、その特許権に基づき権利行使されるおそれがあるということです。

 この場合、自社内ではノウハウとして保護してきたため、当該必須技術は、公知化されていません。 したがって、他社の権利行使に対して、新規性、進歩性違反の無効理由があることを理由とする特許無効の抗弁 (特許法第104条の3)で対抗することが困難であるといった事態も想定されます。 このような事態に備えて、ノウハウで保護していく方針を取った場合には、先使用権の抗弁で対抗することを考えて おかなければなりません。 先使用権とは、特許権者の発明と同一内容を、その特許出願前から、日本国内でいわゆる善意で事業として実施し、 又は事業の準備している者に対し、一定の条件のもとで与えられる法定通常実施権をいい、当該実施権が認められると、 その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内であれば、継続して事業を実施することができることに なります(特許法第79条)。したがって、他社の権利行使に備えて、先使用権を主張するための準備をしておくことは、 技術をノウハウとして保護していく上で極めて重要なことです。

 以上のように、ノウハウで保護していく方針を採った場合には、一定の管理レベルの構築、維持・継続に加え、 他社権利行使に対する対抗手段の準備など、多大な労力が必要となります。 ノウハウと思われるものであっても、特許請求の範囲の記載に工夫を凝らせば特許化が可能となるものもたくさん存在します。 したがって、検出可能性という角度から発明を見つめ直し、検出可能性がある限り、特許出願すべきであることは言うまでも ありません。

特許出願戦略

 必須技術を特許出願すると決定した場合には、たとえば、既に一定程度、特定技術に関する特許を有しているのであれば、 その中から事業化に向けての基本となる特許を選別し、その特許を核にいわゆる特許ポートフォリオを形成するよう研究開発 活動を行なっていくことになります。また、当該分野で全く技術開発がなされていないような場合でも、基本となり得る技術 を検討し、それを中心に研究開発活動戦略を練ることになります。

まとめ

 以上検討してきたとおり、特許出願費用に見合うだけの技術でない場合は、あえて公知化するという選択肢も考えられますが、 基本的には検出可能性のある技術を研究開発したのであれば、特許出願をすべきです。 また、検出可能性を全く見出すことができない場合には、ノウハウとして保護していく方針を採ることになりますが、 この場合には、ノウハウ管理体制の構築、管理の維持・継続、そして、万一に備えて他社特許に対抗するための準備を することが重要です。

 何と言っても、特許出願することが原則であって、公知化やノウハウ管理は例外である点を忘れてはいけません。

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