戦略的知財法務

 知財マネジメントとは、ビジネスと知財を絡めて市場をコントロールすることによって企業競争力を付与し、 そのための武器として知財を活用していくということをいいます。これには、@戦略的な知財法務という側面 と、その活用すべき知財をいかに管理していくのかというA知財管理という側面、の二面性を有するものです。
 ここでは、新規な市場へ参入を検討している企業様向けの@戦略的な知財法務について考えてみます。

特許の必要性

 そもそも、市場参入するためになぜ特許が必要なのでしょうか。確かに特許がなくても製品を開発すれば、 市場へ参入することができるようにも見えます。
 しかしながら、市場参入を果たしている競業他社は、当該市場における製品を製造するために必要不可欠な特許 (以下、「必須特許」といいます。)を既に取得しているのが一般的です 。特許権という、他人を排除し自らが 独占的に実施できる権利(特許法第68条)という武器を有している競合他社の集まりである市場に対し、 そのような武器を持つことなく参入したとしても、いずれ特許権侵害訴訟等を提起されて撤退を余儀なくされるこ とになることは目に見えています。 もちろん、他社から特許の実施許諾(特許法78条等)を受けることで市場への参入は許されるかもしれませんが、 それでは、ロイヤリティコストがかかるので価格競争力がなく、いずれは市場において沙汰されてしまいます。
 他方、必須特許を取得した上で市場参入した場合はどうでしょうか。既に参入している会社から特許権を行使 されたとしても、必要に応じてクロスライセンス契約を締結するなどによって特許リスクをヘッジすることができます。 また、新たに市場へ参入する会社に対しては、特許権によって牽制を行うことができるので、場合によっては市場 における独占的地位の確保も夢ではありません。
 このように、必須特許を取得することは、市場参入を果たすための切符であり、永続的な企業競争力を実現・ 確保するために最低限必要な要件といえます。

特許訴訟以外の方法

 まず、最初に本当に新規市場に参入すべき価値があるのかを検討する必要があります。 投資に対して見合う利益が得られるほど市場が大きいのか、また、将来の需要予想はどうなっているのか等 の観点でのビジネス的な検討も必要ですが、ここでは主として知財マネジメントの観点から言及します。
 市場参入するか否かの検討にあたっては、現在の市場の大きさ、将来の市場の伸び、競合会社の有無、 技術動向の流れ(複数の技術の流れ)等、調査会社を使いビジネス的な観点から行うのが通常でしょう。 ただ、これらの情報のみに頼ってしまうと、マーケットの規模・成長も大きいが、特許リスクも大きいという ハイリスク・ハイリターンな市場へ投資してしまい、結果として特許権の行使によりあえなく撤退という 顛末に至ることがあり得ます。
 たとえば、1つの製品市場においてα、β、γという三つの技術が考えられる場合を想定します。 以下の図に示されるように、


製品市場と特許


@α技術はメジャーな技術であり将来の伸びも十分に考えられるのですが、X社、Y社という競合会社 によって多くの特許取得が既になされている
Aγ技術はマイナーな技術で、他社特許がそれほど存在しないので参入の余地はあるのですが、将来メジャーな技術 になる可能性はあまり高くない
Bβ技術は、メジャーとまではいえないまでも、γ技術よりは将来が期待できる技術で、 そこにはX社やY社の特許取得が及んでいない

という場合、どういう判断をすればいいのでしょうか。
 α技術は市場の規模としては魅力的ですが、あまりにも特許リスクが高く、参入するメリットはないと判断すべきです。 また、γ技術はそもそも市場としての魅力がありません。そうだとすると、β技術に特化して、X社、Y社に先行して 特許を取得することにより特許リスクを下げつつ、β技術市場において支配力を高めていく、ということに合理性がある といえましょう。
 このように市場への新規参入においては、マーケッティングの他に、特許調査という手法を利用して判断を行 うことが推奨されます。一般的に、特許調査は、特許出願の前に、自己の出願の特許化の妨げになるか否かという観点や、 警告を受けた相手方の特許を無効にするための先行技術調査という位置づけで行われています。 しかしながら、特許は単に新しい技術が記載された書面というだけでなく、企業が真っ先に研究開発 の最先端を開示する書面でもあるのですから、そこから企業のビジネス戦略を探ることができる可能性があるのです。

 その後、たとえば下図のように、β技術のうちの必須特許を選別し、その周囲に自社の特許群を形成すべく、研究開発活動 を行うという方針とするのです。このように特許ポートフォリオを形成することによって、β技術に関して必須特許を 複数取得し、市場参入障壁を上げることが可能となり、また必要に応じて、X社やY社とクロスライセンス契約を締結し、 特許リスクをヘッジすることも可能となります。

特許ポートフォリオ


 特許を利用することによって、見えざる壁が明らかになり、自分が目指すべき道(特定技術分野に参入 するのか、撤退するのか等)が見えてくるのです。
 以上のように、新規参入するか否かの決定は、市場調査に加え、他社の有する武器(特許)を認識しなければ、 最終的に市場で淘汰されてしまいます。そのためにも、特許という視点でも市場全体を見渡し、参入する か否かを決定することが必要です。

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