特許権行使の方法

 他社が自社の特許権侵害をしており、自社特許に瑕疵がないと判断すれば、一般的には特許権侵害訴訟の提起を検討する ことになります。しかしながら、訴訟は時間や労力がかかり、訴訟をする側にとってもリスクがありますので、果たして 訴訟提起するのが得策であるのかという点をよく吟味しなければなりません。 訴訟の費用対効果を十分に吟味し、権利行使の戦略を練り、他の手続との利害得失を考え、いかなる手続で権利行使をする のかを検討する必要があります。

特許権行使の戦略

 特許を取得する目的は、他社の市場への参入を防ぐことに終局的な目的があるわけですから、差止請求を行なう理由も 自己の製品市場を守ることに尽きます。したがって、相手方が特許権侵害をしていれば、差止請求訴訟の提起によって、 相手方の市場参入を防ぐというのが原則です。
 もっとも、まだまだ未発達の小さい市場においては、必ずしも訴訟提起という手段が正解とはいえない場合もあります。 未発達の市場においては、訴訟提起により市場自体が発展せず、閉鎖的となってしまい、代替市場に他社がこぞって流れ、 それが主流の市場となってしまうことがあります。そこで、このような小規模の市場においては、一定程度の参入をあえて 認め、参入者と競争することで、市場を大きく発展させていくという方針をとることも考えられます。 この場合には、参入者に対して特許をライセンスし、ライセンス料を得ることで市場競争力を維持すればよいのであり、 むしろ差止請求訴訟を提起しないほうがよいということにもなります。
 また、相手方製品の商流によっても、必ずしも訴訟提起が正しい選択といえない場合があります。 たとえば、実際に権利者の製品や相手方製品の製造、販売が日本ではなく、ほとんど外国で行われているような場合には、 我が国での損害賠償金は低額であり、国内で訴訟を提起するメリットはあまりありません。 一方、外国において国内特許に対応する特許を有していても、それを行使する場合、その費用や言語の面等で問題が多く、 大企業でなければ、実際に外国で訴訟を起こすことは現実的ではありません。 そうであるなら、訴訟を起こすことなく、ライセンスすることを前提に交渉をし、全世界の製品を対象としたライセンス 契約を締結するほうが、経済的なメリットがあるともいえます。
 さらに相手方が基本特許を取得している場合には相手方からのカウンターが予想されますので、 訴訟提起することが得策でないことも往々にしてあります。この場合には、クロスライセンス契約を締結することがビジ ネス的な観点からは正しい選択となる場合もあります。
 以上説明したものはあくまで例示ですが、市場規模、将来性、製品特性等を考慮し、対象商品がどこでどのように 流通しているのか、相手方との利害関係等をしっかり把握し、訴訟提起することがビジネス上プラスとなるのかを あらゆる角度から検討することが大切です。

特許訴訟以外の方法

 特許権侵害の本訴以外の権利行使の方法として以下のものがあげられます。

調停・仲裁

 ライセンスをしないというのであれば、一般的には訴訟提起することになるというのは既に述べたとおりです。 しかしながら、訴訟は、時間、労力、その他弁護士費用や弁理士費用が相当程度かかります。それに見合うだけのも のであればよいのですが、費用をかけたくない、又はかける費用がない場合には、他の方法を考える必要があります。
 この場合には、事前交渉段階で調停や仲裁という手続を利用することが考えられます。 訴訟をせず、調停結果に従う旨の合意や仲裁合意をしておけば、それほど費用はかかりません。 もっとも、当事者間で合意する必要がありますので、相手方が合意しなければ、かかる手続を取ることはできません。

仮処分

 侵害訴訟を提起する場合、一般的には差止請求と損害賠償請求を同時に行うことになりますが、 求める損害賠償額によっては訴額が極めて高額となる場合があります。あるいは、できる限り早く差止請求を行いたい という場合も少なくありません。
 この場合には、仮処分を申し立てるという手段があります。仮処分を用いれば、差止が可能となり、訴訟費用(訴額) も安価で済みます。もっとも、一般的な仮処分とは異なり、特許事件の場合には、本訴同様の高度の疎明が要求されるという 特殊性があり、仮処分において損害賠償請求もできません。なお、仮処分の申し立てには、本訴と同時に行うことで 、相手方にプレッシャーを与えるという戦略的な使い方もあります。

税関による輸出入差止

 特許権侵害のおそれのある製品が輸入されている場合、それを差し止めるためには、税関による輸出入差止手続も可能です。 この手続は、税関による手続であり、事前相談等を利用することで、権利侵害に対する迅速な救済が可能となり、 訴訟提起するよりも、時間、費用の面でも有用であるといえます。 もっとも、仮処分同様、証明の程度は高いものを要求され、損害賠償請求もできません。また、司法判断ではなく行政 判断ですので、不服があれば最終的には司法判断を仰ぐことになるという迂遠さがあります。

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